Written by HOMMURA Kyohei. (@twitter&@facebook)
今回は、ネタバレ禁止問題についてスポーツビジネス的な側面から書いていきたいと思います。。
ネタバレを防止する方法
以前にネタバレ禁止について書いた記事がありますが、そこでは「なぜリアルタイムに見れない人のために世界が合わせなければいけないのか」ということを書きました。ネタバレなしに過ごせるわけがないとも書きました。
アメフト関係者のネタバレ御法度な感じ、うぜえわ。知りたくない人いるだろうけど、知りたい人、誰かと語りたい人、盛り上がりたい人の気持ちは置いてかれるの??
— 本村 恭平 (@boekendorp) 2016, 2月 8
しかしながら、ネタバレを防止するような方法について論文があるみたいなので紹介しておきます。どちらもPDFです。
スポーツのネタバレを防止する Twitter クライアントの開発
と諸検討
ちゃんと読んでないので本当にネタバレ防止できるのかわかりませんが、とにかくネタバレ禁止にすることで、SNSにスーパーボウル観た感想などを載せることで興味持ってもらえる可能性を奪ってしまうかもしれないというのが自分のネタバレに対する考え方です。
今回は少し視点を変えてスポーツビジネスの観点から書いていきたいと思います。
スポーツビジネスのお金の流れ
スポーツビジネスの基本的な話をしていこうと思いますが、こんなのすっ飛ばしてフットボールの話を読みたいよって人は飛ばしてください。
スポーツビジネスにはいろいろありますが、基本的な話として「プレーをしてお金をもらう」というのはだいたい選手でもチームでもリーグでも似たような流れです。
では、そんなプロスポーツはどのようにビジネスとして成り立っているのでしょうか。
賞金
一番簡単なのは賞金で稼ぐようなプロスポーツ選手です。
あまり知られていませんが、競輪や競艇の選手は大きな試合で勝てばハンパなJリーガーよりもよっぽどもらえます。
チケット売上
次にイメージしやすいのがチケット代で稼ぐプロスポーツチームです。これはミュージシャンのライブに近いです。グッズもこれと一緒です。
放映権
テレビはたくさんの人にテレビ番組を見てもらうことで、たくさんの人にCMを見てもらい、たくさんの人にCMを見てもらいたい企業からお金をもらいます。
そのお金は番組制作費となり、たくさんの人に見てもらえるような試合の権利をもっているチームやリーグからテレビで流す権利を買います。
スポンサード
プロスポーツ選手やチームのスポンサーになる企業はその選手やチームをただ応援しているからお金を出すわけではありません。当然見返りがあります。
その見返りとはイメージやメディア露出です。
錦織圭選手がUNIQLOのシャツを着れば、彼のイメージと重なって企業イメージがよくなりますし、優勝して写真がメディアに載れば漏れなくUNIQLOのロゴも一緒に写ります。
注目をお金にする
お金の流れを逐一書いていったらきりがありませんが、総じて言えることは、スポーツビジネスとは注目をお金にするビジネスということです。
選手への賞金はもとをたどれば大会主催者が得ているチケット売上や放映権、広告収入なので、誰も見ないような大会は賞金の元手がありません。
公営ギャンブルでも誰も賭ける人がいないレースで勝っても賞金が出せるわけがありません。
有名な例で言うと、オリックスの話です。
現在、「オリックス・バファローズ」というチームがありますが、もともとは「大阪近鉄バファローズ」と「オリックス・ブルーウェーブ」というチームでした。
この合併話は親会社(ほぼほぼスポンサー企業)の経営が苦しくなったのが原因でしたが、その伏線になったのが「ネーミングライツ」です。
チームや施設の名前に企業や商品の名前をつける権利を売る、というものなのですが、他球団から認められず断念し、球界再編へと進むことになります。
なぜ、チーム名の名前がお金になるかというと、メディアに流れるからです。ニュースのたびにその名前が呼ばれ、新聞にその名前が載るからです。
「オリックス・ブルーウェーブ」はかつては「阪急ブレーブス」でした。
親会社である阪急電鉄がオリックスになり、チーム名が「オリックス・ブレーブス」になったのですが、その後「オリックス・ブルーウェーブ」に変わります。
これは新聞などに掲載されるときに「オリックス」ではなく「ブレーブス」と書かれるため、長い名前の「ブルーウェーブ」とすることで「オリックス」の表記を浸透させた、という話を聞いたことがあります。
真偽のほどはわかりませんが、それほどスポンサーにとってメディアへの露出というのは見返りの部分なのでシビアな話になります。
プロは勝たなければいけないのか
プロスポーツ選手やプロスポーツチームというのは当然勝利を目指すものだとされていますが、なぜ勝たなければいけないのでしょうか。
それは注目を得るためです。
試合や大会に勝てばニュースにしてもらえますし、注目度の高い大会に出場することができるからです。極端な話、勝っても負けても注目度が一緒なら勝つ必要はありません。
一時期、F1でRedBullが強かった頃、1位がダントツで勝ってて、2位争いのほうがバトルが熾烈なために、スタートとゴールしかRedBullの車体が映らないということがありました。F1のマシンにはたくさんのロゴが貼ってあり、中継のときにそれが目についてくれることを想定してスポンサーはお金を出しています。
ダントツで勝つが故にスポンサーの期待を裏切るという状況もたまにあります。いまはメルセデスがそれに近い状況になっています。
また、負けても話題なることでメディアに露出すればスポンサー的にはOKという状況もあります。
「ソフトバンク松田、敗戦のショックでまさかのドライアイ完治!」というニュースが全国でかなり話題になれば、実際にはこんな短絡的な話ではありませんが「ソフトバンク」も文字がメディアに流れればスポンサー的には喜ばしいことと言えます。
ネタバレ禁止で起きること
そろそろネタバレ禁止の話に入っていきたいと思います。
以前の記事で中継がリアルタイムでない場合、報道規制がかかることがある、と書きました。
これは録画放送により注目を集中させようという狙いがあります。現地のリアルタイムでの注目がそれほど期待できない場合やネタバレによって注目度が下がってしまう恐れがある場合にこのようなことが起きます。
ただし、このやり方はニュースの注目度が著しく落ちてしまいます。新鮮な情報ではないので当然ですよね。
仮にXボウル「富士通フロンティアーズvsパナソニックインパルス」のカードがスーパーボウルと同じように朝8時からあって、再放送が夜23時からあるとします。
ネタバレを恐れてみんながSNSに結果を投稿しないようにしたとします。ニュースも23時からの中継終了後まで報道しないようにしたとします。
だとしたら、何が起きるのか。
注目度は下がりますよね。
もう少し正確に言うと、メディアに「富士通」「パナソニック」という文字が露出する機会が減ります。
なぜなら「Xボウル パナソニックが富士通相手に逆転勝利!」というニュースはずっとあとになってからネットで載るだけになってしまうからです。
翌朝のニュースの状況は報道規制しててもしていなくても一緒なので、単純に半日ほどメディア露出の機会を失ったことになります。
それにメディア露出というのはマスメディアだけでなく個人のSNSでも同じことです。
いかに個々人が「富士通」「パナソニック」という文字をツイートするのか、というのがすべてではありませんが、一つの指標になります。
スーパーボウルのリアルタイムでは関連した単語がいくつもトレンド入りしていましたが、ネタバレを禁止して再放送がひとしきり終わってネタバレ解禁になってそれぞれがSNSに投稿したところで、トレンド入りするような注目を集めることはほぼ不可能です。
ぼちぼちがそこそこ続くようなSNSの賑わいなんてあってないようなものです。試合をやっている3時間だけでも最大級に賑わうことがないことには不特定多数の人に気付いてもらえません。
極端な話をすると、「富士通のCBのインターセプト、ハンパねぇ!!!」とツイートしてもらうためにプレーしなければならないのがプロスポーツ選手やプロスポーツチームです。
いかに注目を集めることでお金を出しているスポンサーや視聴者、観客に寄与できるのか、というのが重要なポイントです。
アメフト関係者やアメフトファンは「ネタバレ禁止!」なんて言ったりしますが、スポンサーはそうやって話題にしてもらってメディアに露出して欲しいがためにお金を出しています。
Xリーグの選手が自分たちが出ている試合結果もSNSに書いたり、ニュースに載ったりすることも否定してしまうのは本末転倒です。自分が楽しみにしていた試合結果をどこかで不意にネタバレされてガッカリしたとしても、そのニュースに取り上げられるだけの価値があると判断してもらえたことに喜んだ方がいい思います。
NFLの世界戦略
もう少し具体的な話をしたいと思います。
例えば、こういったツイートがあります。
試合終了!第50回スーパーボウルは24対10でデンバー・ブロンコスが優勝!#SB50 #nfljapan #スーパーボウル pic.twitter.com/vxUpMEse7N
— NFL JAPAN (@nfljapan) 2016, 2月 8
ここまでのツイートは463RTされていますが、思いっきりネタバレツイートなのでみんな暗黙の了解を守ってRTすることは避けるとします。
すると、NFLは「日本ではスーパーボウルは全然人気ないなー、NFL JAPANやフラッグ協会を支援するほどの価値あるのかなー」という話になる可能性だってあります。
このツイートは7952RTされていますが、日本でどのくらいの人がどの時間にRTしたのかということは集計されています。
Champion. #SB50 pic.twitter.com/rnCcAxKEZI
— NFL (@NFL) 2016, 2月 8
日本からのRTの少なさにNFLは、日本は投資に見合ったリターンのない市場と判断してもおかしくありません。実際のところはわかりませんが「NFL倶楽部」があんなに深い時間でしかできないことを考えるといつ番組がないと思います。
ハーフタイムショーでもなんでもNFLやそのスポンサーがメディアに露出することことでお金が生まれることこそが価値であり、両チームのハイレベルな試合もハーフタイムショーもそのためのものにしか過ぎない、というのはいくらなんでも過言ですので言いません。
しかし、今回のハーフタイムショーの報道のおかげでCold PlayのCDが日本でバカ売れすれば、NFLは日本でのNFLブランドの向上になったということで大喜びするはずです。
NFL倶楽部のブログ企画
地上波で数少ないアメフトのメディア露出の機会になっている「NFL倶楽部」ですが、今年はブログ企画でTwiiterを使っていました。
【NFL倶楽部ブログ企画】#オードリー、尾崎アナの3人が選んだスーパープレイの中でどれが一番?
— NFL JAPAN (@nfljapan) 2016, 2月 19
尾崎アナが選んだのは、LBハリソン(スティーラーズ)のスーパープレイ!
共感できたらリツイートをお願いします!#nfljapan pic.twitter.com/bVlaMGRTe8
【NFL倶楽部ブログ企画】#オードリー、尾崎アナの3人が選んだDPのスーパープレイの中でどれが一番?
— NFL JAPAN (@nfljapan) 2016, 2月 18
春日さんが選んだのは、WRフィッツジェラルド(カーディナルス)のプレイ!共感できたらRTお願いします!#nfljapan pic.twitter.com/MUGkcl1NCP
このツイートは過去のプレーから選んだものですが、レギュラーシーズンではその週のプレーを選んでいくのでこれもネタバレの一種かもしれません。
こういった企画はRTをしてもらうことで、オードリーのお二人や相武紗季さんの知名度なども使って、NFLを知らない層にもNFLのプレーを見てもらう機会をつくろうとしているのだと思います。
アメフトやNFLの人気を上げていきたいと思っている人はこういったプロモーションに乗っかったほうがいいです。竹山さんのほうがよっぽどRTされています。
みんな!グリーンベイ パッカーズは好きかい? pic.twitter.com/PCwrUVAVs8
— カンニング竹山 (@takeyama0330) 2016, 1月 21
NFL倶楽部の企画のRTが多ければたくさんの不特定多数にプレーを見てもらえる機会が増えたことになりますし、そうやって潜在的な視聴者はたくさんいるという判断になればもっと浅い時間帯での放送になるかもしれません。
「ネタバレ禁止」は自分だけで
結局、何が言いたいかというと、スポーツビジネスとして成り立たせるためには注目が必要であり、それらは可視化していかないとお金になりにくい、ということです。
「ネタバレ禁止」によって好きな人が最大限に楽しめる、ということもスポーツビジネスにとっては大きな価値です。
そういった体験が中長期的なファンの獲得になりますし、ミーハーよりもそういったコアファンのほうがチケットやグッズを買ったりしてお金を落としてくれる可能性が高いからです。
ですが、そのために「ネタバレ禁止」を他人まで推し進めていった結果、いろいろ損してしまうこともある、というのは知っておいたほうがいいと思います。
陸上界のねじれ現象
最後にこのブログでたまに登場する武井壮さんの考え方を載せておきます。
トラック競技で日本選手権で8番に入賞しても一般の方はピンと来ないが、箱根駅伝で5区を走りました!と言えば、ほー!すごい!となる。これを陸上の短距離トップ選手やOBは『ねじれ現象だ』と言ったり、『レベルの低い選手まで騒がれて勘違いしている。。』などと責めることもある。
果たしてそうだろうか。
スポーツの価値を記録や順位、大会の大きさ、レベルの高さだけで判断している選手や人間はこういう考え方をしてしまうと思う。スポーツに社会的、経済的価値が生まれるには『多くの人に見てもらえる事』が絶対条件。
(中略)
レベルの低い選手の大会がこんなな注目されるのはおかしい、などと言う前に、それなら日本チャンピオンが50人以上参加する日本選手権を楽しみに観戦する人が何故こんなにも少ないのか、何故箱根駅伝のように知名度を獲得できないのか、それを真剣に考える必要があると思う。
(引用元)
結局、スポーツは注目されることが価値なので、どっちがレベル高いとかそういう競技者レベルだけの話をしていてもダメなんです。
Jリーグのサポーターは少しでもチームをスポンサードしてもらえるようにスポンサーになった企業製品を進んで買ったりするようにしていると聞きます。
そういう視点が果たしてアメフト界にあるのか疑問に思ったので今回長々と記事にしてみました。うまくまとまっていない部分も多々あると思います。失礼いたしました。
ということで、「ネタバレ禁止」で起きることでした。