Written by HOMMURA Kyohei. (@twitter&@facebook)
今回は、「ムーブメントスキルを高める」という本についてレビューしたいと思います。
引用:Book House HD:ムーブメントスキルを高める──これなら伝わる、動きづくりのトレーニング
どんな本?
この本は、『月刊トレーニング・ジャーナル』2012年8月号〜2013年10月号に「ムーブメントトレーニング」として連載されたものを加筆・修正し、再編集したものだそうです。
ムーブメントスキルを高める これなら伝わる、動きづくりのトレーニング (TJスペシャルファイル)
- 作者: 勝原竜太,朝倉全紀
- 出版社/メーカー: ブックハウス・エイチディ
- 発売日: 2016/05/28
- メディア: 単行本
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著者の勝原さんは、2007年から2009年まで鹿島ディアーズ(現LIXILディアーズ)のアシスタントコーチを、2010年-2011年シーズンではパナソニック電工インパルス(現パナソニックインパルス)のヘッドストレングスコーチについており、一般社団法人「すぽーつのよき相談者」の代表理事をしているそうです。
監修をされている朝倉さんは、鹿島ディアーズのアスレチックパフォーマンスコーチや日立サンロッカーズのストレングスコーチをされており、2010年からはムーブメントスキルの向上を目指した「School of Movement Training」を開始し、多くのコーチ、トレーナーに対して指導を行っているそうです。
そんなお2人が出された今回の本では「ムーブメントスキル」ということで、スポーツのベースになる動きをどのように分析し、どのようにトレーニングによって強化していくのか、どのような方向にどのような力を加えるとどのように動けるのかということを力学的に分析していくかということついて書かれています。
具体的に練習方法やトレーニング方法が載っているわけではありません。
トレーニングメニューを作るためにどのような考え方をしていけばいいか、について書かれています。
武井壮さんが「速く走るためには何歩目にどの筋肉を使ってどの方向にどうやって力を加えるかについて考えなければいけない」と言っていましたが、まさにそういったことです。
以下、自分が気になったところを抜粋していきます。
ムーブメントスキルをトレーニングする
ここで「ムーブメントスキルをトレーニングする」とは「ヒトの基本的運動である重心移動と末端加速の能力を高めることを目的として身体作りを行い、それらを競技スキルへの理解、運用につなげていくこと。また、よりパワフルに出力発揮を行い、それを継続的に出力する能力を高めること」と定義しています。
広い意味ではトレーニング処方に関するコンセプト(概念)であり、目標達成のための哲学を学ぶことであると付け加えておきます。
野球の城島健司が筋肉を付けても逆効果なのでは、と言われて、「力こぶをバッティングに作用するように振れるかどうかがプロの技術だ」と言っていましたが、似たような考え方のように思います。
腕を力強く伸ばす動き(=末端加速)をいかに打球を飛ばすか(=競技スキル)への運用にする、というイメージです。
身体スキルを競技スキルへと高めていくためには、それらをつなげるムーブメントスキルが不可欠になります。
アジリティドリルを効果的トレーニングにする
アジリティを高めるトレーニングとして、いろいろなところでいくつものドリルが紹介されています。書籍やインターネットを活用すれば無数のドリルに簡単に出会うことができます。一方で、一定以上のトレーニングを積んだチームでは、アジリティドリルの効力の伸びが低迷することがあります。その原因のひとつには、アジリティは複合的な能力であることを気がつかず、アジリティを高めるための目標設定や条件づけ、コーチングキューがドリル中に反映されていないことです。
ここで留意したいのは、トレーニング指導においてアジリティドリルそのものが速くなることだけを目標にしないように導くことです。質の高いアジリティドリルの実践がなされていないと感じるとき、トレーニング指導者はその障害になっている因子を鍛えるドリルを提供します。
例えば、ラダートレーニングはどのチームでもよく取り入れられているトレーニングだと思いますが、ラダーの上を走ることだけ上手くなっていることがないでしょうか。
複雑な動きがラダーの上でできることに満足して、パフォーマンス向上に役立っていない可能性はないでしょうか。
また、一定の距離を置いたコーンを往復したりするダッシュでも何秒で走るとか何本走るとかそういったことだけにフォーカスされすぎて、アジリティトレーニングにおけるテクニックである「足の位置」「ストライド調整」「身体の傾きと姿勢」への意識がおろそかになってしまってはトレーニングの意味がなくなってしまいます。
自分が高校時代に野球部でダッシュのほうのシャトルランをひたすらやっているときに「線を越える足の角度、逆脚の膝の角度、重心の位置、越える前のジャンプの大きさをどうやるかを考えてる」って話したらチームメートに驚かれた記憶があります。
アジリティダッシュをその距離だけ走るトレーニングだと捉えてしまうとムーブメントスキルは身につきません。
筋力と仕事
定義された仕事に対する大きさ仕事量となり、この仕事量を筋力と呼んでいます。それは身体が発揮した総合的な力を表しています。
総合的な力とは、
1.筋の収縮力そのもの
2.複数の筋繊維や筋のコーディネーション能力
3.筋によって可動・固定をする関節の能力
4.定められた仕事を最大化するために複数の関節をコーディネートする能力
のことです。
1や2はすぐに思いつきそうなことですが、3や4については関節の話で、あまり思いつかない要素です。
筋力を高めることで、一気にバン!とした力を出すことができるというだけではありません。関節が固定されることによってより効率よく力を地面や物に伝えられることができます。
例えば、パンチを打つときでもしっかり手首が固定できてなければいくら腕の力が強くて速く打てたとしても、手首がぐにゃっとなってしまえば相手にダメージを与えることはできません。
サッカーでボールをキックするときにでも同様です。足首をどの角度で固定できるか、どのタイミングで可動するかで、強く正確に蹴れるかが決まります。
ムーブメントスキルで動きが変わる
私たちはスポーツに特化した特異性を語るよりも、その一歩手前の部分をできるだけ語ろうとしています。基本的なスタイルは、いわば「人間特異性」をどうやって表現するか、という部分です。競技に特化する以前の問題にできるだけ目を向けて、体系化したアイディアをさまざまな種類のスポーツのコーチたちに使ってもらって、そしてそこから競技特異性というのを、選手であったりコーチであったりと一緒に、本来の競技特異性としてよいものかどうかというところまで、ディスカッションしていくべきなのかと思っています。
「人間特異性」をベースに「競技特異性」を探っていく、というのはムーブメントスキルの重要なポイントだと思います。
先日、「速く走る方法」を書きましたが、陸上用の走りだとしてもちゃんと力を地面に伝えて効率よく走ることが身につかない限り、アメフト用だろうがフラッグ用だろうがその競技にあった走り方でも速くは走れないということだと思います。
ということでオススメ
この本を読んで、何を得たとか、何ができるようになった、というのはありませんが、個人的にずっと考えてきたことの方向性はあっているんじゃないか、という感想を持ちました。
まだ、ムーブメントスキルがなんたるかをちゃんと理解できていないかもしれませんが、シンプルで根本的な考え方がまとまっている本書はこれからの自分のトレーニングに対する考え方の指針になると思います。
抽象的な話が多いので難しいかもしれませんが、オススメです。
ムーブメントスキルを高める これなら伝わる、動きづくりのトレーニング (TJスペシャルファイル)
- 作者: 勝原竜太,朝倉全紀
- 出版社/メーカー: ブックハウス・エイチディ
- 発売日: 2016/05/28
- メディア: 単行本
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ということで、「ムーブメントスキルを高める」のレビューでした。