Written by HOMMURA Kyohei. (@twitter&@facebook)
今回は、水曜日のダウンタウンでやっていた「アメとムチならムチのほうが力出る説」からモチベーションについて書いていきたいと思います。
水曜日のダウンタウン
「水曜日のダウンタウン」というのは、芸人さんが持ち込んだ様々な説を悪意に満ちたロケと編集でおもしろおかしく検証していくバラエティ番組です。
説を検証といっても、大半の説がどうでもいいようなことで、検証方法も決して科学的ではなく、ヤラセも含んだおふざけになっています。様々な説が過酷なロケによって検証されていくのですが、そのなかでも個人的にお気に入りなのが、「帰巣本能、ハトよりヒトのほうが優れている説」です。
この企画では、安田大サーカスのクロちゃんが東北の知らない土地でスマホなし、無一文、目隠し状態で放置され、同時に出発した伝書鳩とどちらが早く東京の指定の場所まで帰ってこれるかという検証がされました。
アメとムチならムチのほうが力出る説
今回の説では、鉄棒にどれだけ長くぶら下がることができるかということで検証しています。
まずは、何も説明なしで計測して、持ちタイムを出します。そして、アメはその後持ちタイムを1秒更新されるごとに5000円という説明をされた後にもう一度チャレンジします。
単純に頑張れば頑張るだけお金がもらえるので全員タイムが伸びると思いきや、そうでもなく、5人中3人がタイムを伸ばし、残り2人は下回る結果になってしまいました。
過酷すぎるムチ
そして、後日、ムチに設定されたのは、高さ54mの橋の上で自己ベストを更新できなければそのままバンジージャンプで落下していく、というものでした。自己ベストを更新できれば足場が出てきてバンジーを回避することができます。
持ちタイムやアメの計測時にも3kgの重りを担いでおり、バンジージャンプのためのハーネスなどの器具の重さが加わる条件と同等に設定されています。
検証結果
過酷すぎるムチのもと計測した結果、5人全員がタイムを下回りバンジージャンプで落下するという結果に終わりました。モチベーションどうこうという前に、54mの橋の上という状況で手に汗をかいてしまい記録が伸びなかったようです。
番組の検証結果は「キツすぎるムチは逆効果」ということで終わりました。
そもそも体育館のなかでの記録と、橋の上での記録というのは比較できないはずで、条件を揃えるなら「自己ベストから+1秒ずつ5000円の賞金」というのと、「自己ベストから-1秒ずつ5000円の罰金」が適切なのかもしれませんが、そんなのはおもしろくないのでバラエティ番組が成立しません。
スポーツでも似たような状況
上の検証は、アメとムチがアンバランスな状況で行われましたが、あながちスポーツでよくあるような状況と変わらないように感じました。
というのも、いまはなくなってきたのかもしれませんが、失敗すれば説教が待っていたり、酷い場合には体罰が行われていたりするという状況は54mの橋の上でバンジージャンプさせられる状況となんら変わっていないからです。しかも、検証のような定量観測に基づくムチではなく、指導者の裁量次第でどうとでもなるムチとなれば、その恐怖はもしかしたら橋の上を上回るかもしれません。
そういった頭の中が恐怖に支配されてしまったなかでのプレーでは、検証と同じように自己ベストを更新することはできません。
気持ちの強さとカラダは別
モチベーションについてだけ考えると、5000円もらえることよりもバンジージャンプのほうがより大きな動機があるので、どちらの状況がより「頑張りたいと思えるか」についてはムチだと思います。
ただ、気持ちはより頑張りたいと思っていても、カラダがどちらが頑張れるかということについては別問題です。
よくポジティブシンキングの例に出されますが、「転ばないように気をつけて」と声を掛けると転んだ自分を自然と想起してしまうため転んでしまう可能性が高くなるなんてことが言われています。なので、「○○しないように△△」という否定文よりも、「ちゃんと下見て歩いて」といったように「☆☆して」といった肯定文を使った方がスポーツにおいてもパフォーマンスは上がるそうです。
スーパー・ポジティヴ・シンキング ~日本一嫌われている芸能人が毎日笑顔でいる理由~ (ヨシモトブックス)
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この検証についても、アメの状況であれば「成功したら☆☆だから頑張ろう」といった具合に自身の成功イメージを持って取り組めますが、ムチの状況だと「失敗したら○○になるから頑張ろう」と失敗することを想起してしまいます。
その結果、頑張りたい気持ちの強さとは別に、落下のイメージによってカラダは拒否反応を起こし、手汗が出たり、無口になったり、過度の緊張によってパフォーマンスを下げてしまいます。
そういった意味で、より肯定的なイメージが持てるアメのほうがパフォーマンスアップには効果的だと思います。
外発的動機づけと内発的動機づけ
モチベーションは一般的に「やる気」と訳されますが、やる気の種類はいろいろあります。ひとつの大きな分類として、「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」があります。文字通り、外からの刺激によって生まれてくるやる気が外発的で、内なるものから生まれてくるやる気が内発的です。
今回の検証は、賞金やバンジージャンプといった外からの刺激によってやる気が引き出されていると考えられるので「外発的動機づけ」に分類されます。いろいろな分類の仕方があると思いますが、私は外発的動機づけを「インセンティブ」、内発的動機づけを「モチベーション」と呼んだ方がわかりやすいと思うので、ここではそのように用語を使います。
上の検証では、賞金やバンジージャンプといった外からの刺激によって動機付けがなされているのでインセンティブに分類されます。
一方、内発的動機づけである「モチベーション」というのは、内なるものから生まれており、例えばそのスポーツをプレーするのが楽しいとか、自己実現、自己表現ができるといったことです。自分が社会に関わりを持って影響を与えているということを時間できる自己効力感(セルフエフィカシー)もそうです。
インセンティブは短期的には効果がありますが、長期的にはデメリットが大きいと言われています。というのも、報酬を与え続けられればそれに慣れてしまいもっと大きなインセンティブが必要になってしまったり、本来持ち合わせていた内発的動機を失ってしまうからです。
わかりやすい例でいうと、遅刻をした人に罰金を科すはじめると一旦は罰金を嫌がって遅刻が減りますがしばらくすると「お金さえ払えば遅刻してもOK」という思考に切り替わり逆に遅刻が増えてきてしまいます。
これは行動規範やグループ内での関係性のなかで育まれたモチベーションがインセンティブに切り替わることによって失われた、と解釈できます。
インセンティブに基づく練習に意味はあるのか
自分が所属していた高校の野球部では生徒自身が練習メニューを組んでいたのですが、チーム対抗で競争して負けたら罰ゲームというメニューがよく組まれていました。主にダッシュやアジリティでやっていました。
これの意図は、罰ゲームを設定しないと手を抜く奴がいるから、ということだったと思いますが、個人的には大嫌いでした。
「インセンティブがなければ全力で取り組めないプレーヤーってなんなの?」って思っていましたし、そもそも根本にはパフォーマンスの向上というものがあるのにインセンティブがなければ頑張れない練習という時点で、キツい思いをした分だけ強くなれる宗教信仰だな、って感じていました。
自身が小学生に指導をするときにも、インセンティブではなくいかにモチベーションを高めていくかということを意識していました。周りと競い合うよりも、自分自身に挑戦できるようなメニューを組んでいました。
モチベーション3.0
最後にモチベーションについて書かれている書籍を紹介します。
モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか (講談社+α文庫)
- 作者: ダニエル・ピンク,大前研一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/11/20
- メディア: 文庫
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この本のなかでは、アメとムチというインセンティブよりも内発的動機づけである「モチベーション3.0」が効果的であることが書いてあります。
- <モチベーション1.0>・・・生存を目的とする人類最初のOS。
- <モチベーション2.0>・・・アメとムチ=信賞必罰に基づく、与えられた動機づけによるOS。ルーチンワーク中心の時代には友好だったが、21世紀を迎えて機能不全に陥る。
- <モチベーション3.0>・・・自分の内面から湧き出る「やる気!」に基づくOS。活気ある社会や組織をつくるための新しい「やる気」の基本形。
【アメとムチの致命的な7つの欠陥】
- 内発的動機づけを失わせる
- かえって成果が上がらなくなる。
- 創造性を蝕む。
- 好ましい言動への意欲を失わせる。
- ごまかしや近道、倫理に反する行為を助長する。
- 依存性がある。
- 短絡的思考を助長する。
基本的には「モチベーション3.0」が有効ということが書いてありますが、アメとムチが有効な条件も書いてあります。そのひとつとして書いてあるのは以下の条件です。
その条件とは、スタッフによって外的な報酬が予期せぬものであり、業務が完了したあとにそれを伝えることである。
プロジェクトの最初の段階で、報奨や条件つきの報酬を提示すれば、どうしても問題解決よりもそちらに関心が集まる。しかし、業務が完了してから報酬を告げれば、その危険は小さい。
言い換えれば、「条件つき」の報酬が逆効果を招く場合には、「思いがけない」報酬を与えればよい。
他にもどのような報酬がいいのか、フローチャートもあり、とても興味深い内容が書かれています。
スポーツにおいて、「モチベーション3.0」に基づく行動を求めすぎているとしんどくなるのも確かです。本書のなかでも、スポーツなどの長期的な上達に対する動機づけは苦痛と書かれています。なので、より悪影響を与えない「思いがけないアメ」を使いつつメニューを組んでいくことが効果的なんだと思います。
新「根性」論
もう一つ紹介したいのが「新『根性』論」です。
新「根性」論 ~「根性」を超えた「今どきの根性」~ (マイコミ新書)
- 作者: 辻秀一
- 出版社/メーカー: 毎日コミュニケーションズ
- 発売日: 2009/05/23
- メディア: 新書
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先ほど出てきた野球部の練習で、なぜこの練習をするのかと聞いたときに返ってきた答えは「根性を鍛えるため」でした。当時、何も言い返せず、絶句した覚えがあります。ツラいときに頑張れるというのは一種の能力であり、それは練習で鍛えられるということは否定しませんが、果たしてコストパフォーマンスが高い練習であるかどうかは疑問です。
従来の「根性」というのは、状況や出来事に向き合うものの、頑張る、耐える、戦う思考であり、それらは発揮されれば強いですが、心に大きなストレスを伴います。一方、本書のなかで書かれている「新根性」は、自分の意志で思考、表現、態度、言葉を選択するものであり、精神的に負担がないものと書かれています。
そんな新根性の定義は以下のように書かれています。
新根性の定義は「元気やパフォーマンスを生み出し、結果をも導くために、自分の心の状態を揺らがず・とらわれずというフローな状態を状況に応じて自分でつくり出せるきわめて重要な遂行なる意志」とでも言いましょうか。
フロー状態については下記のように書かれています。
私はフロー状態に近い心の状態を「機嫌のよい状態」とも呼んでいます。新根性とは状況を踏まえて、その状況に合った機嫌の良さを自分自身でつくり出せるように考える力と言えるわけです。
自分の機嫌を自分で決めることができずに、機嫌の悪い人がどんなに多いことでしょう。自分の機嫌が悪いと一番損をしているのが自分だということを知らないのです。新根性を持たないと、機嫌が悪くなります。その機嫌の悪さはパフォーマンスの定価を招くだけでなく、健康をも損ねることになります。
誰もあなたの機嫌をとってくれるわけではなく、自分で自分の機嫌をとらなければいつも状況次第のリスキーな人生を歩むことになるでしょう。
モチベーション3.0と同じようなことを言っているのがわかると思います。どれだけ自分をその対象に夢中な心理状態にして取り組んでいくのかというのが重要です。
新根性とは強烈な「WILL」であり「WANT」であり、そこに耐える、頑張るという発想はないものだと思っています。スポーツでよりよりパフォーマンスを発揮するためには、そういった強烈な「WILL」や「WANT」を育む必要があります。
あまり知られていないかもしれませんが、メンタルトレーニングは緊張しない方法とかそういうことではなく、まずはこういった根底にある「WILL」や「WANT」を確実にモチベーションに変えていくことからはじめていくそうです。
ということで、モチベーションについてでした。