Written by HOMMURA Kyohei. (@twitter&@facebook)
今回はオススメのフットボール映画「ドラフト・デイ」について書きたいと思います。
このブログで何本か映画を紹介していますが、個人的にはフットボール映画で一番ぐらいに好きな作品です。
この映画は2014年に公開された映画でNFLのドラフトが題材になっています。
NFLのドラフトはプロ野球のドラフト会議とはやり方が違うので少し知識が必要としますが、本編前に少し説明があります。
一緒に観に行った女の子はフラッグを少し知っているからだいたいはわかったって言っていたので、そこまでマニアックな映画というわけではないです。
なので、あまり情報を入れずに観たい人はここで読み終えてTSUTAYAかAmazonに向かってください。
ここからはネタバレなしでいろいろ書いていきます。
NFLドラフト
NFLのドラフトにはプロ野球のドラフトと違う点が大きく2点あります。それは、完全ウェーバー方式と指名権のトレードです。
それぞれを説明する前に1点だけややこしい用語について説明します。
1位指名と1巡指名
NFLドラフトでは「○位指名」というのと「○巡指名」という2つの用語があります。「○位指名」というのは32チーム全体で何番目に指名されたかで、「○巡指名」というのはそのチームで何番目に指名されたかを表しています。
つまり、例外はありますが、「1巡指名」は「1位~32位指名」を、「2巡指名」は「33位~64位」を言います。プロ野球では「2位指名」と言うとそのチームが2番目に指名した選手を言うので、NFLに置き換えると12球団が1人ずつ指名したあとなので「13位~24位指名」となります。下図参照。
完全ウェーバー方式
ウェーバー方式とは順位の下位チームから指名権が与えられるやり方のことです。
「完全」とあるのはプロ野球では1巡指名に限り同時指名で重複すれば抽選となりますが、NFLでは1巡からすべて順番に指名できます。なので、その年の注目選手は必然的にその前年の最下位チームが指名することができます。
NFLをはじめとするアメリカのプロスポーツではこの方式を採用することによって戦力均衡を図っています。戦力が均衡することですべての試合がおもしろくなるようにしています。(実際になっているかはどうかは別ですが)
日本のプロ野球のドラフトでは2巡指名はウェーバー方式ですが、3巡指名は逆ウェーバー方式といって上位チームから指名していきます。ウェーバーと逆ウェーバーを繰り返すことによってどのチームも公平に指名できるようになっています。
NFLの場合はすべての指名順がウェーバー方式なので、この点においても「完全」ウェーバー方式と言えます。
指名権のトレード
NFLでは前述のような順番で指名していくわけですが、各チームは指名をする順番をトレードすることができます。
例えば、指名順22位のテキサンズがどうしても有力QBを獲得したいがために1位指名権が欲しいとします。このときにテキサンズは指名権のトレードを狙います。
今回、テキサンズの持っている指名権は1巡の22位、2巡52位、3巡85位なので、「22位指名権と85位指名権」とタイタンズの持っている1巡1位をトレードできます。
タイタンズは1巡1位の指名権を失う代わりに3巡で2回指名することができます。一般的にこっちのほうが得と言われています。トレードできる対象は指名権だけではなく、選手やコーチ、お金、来年以降の指名権も可能です。
今回の映画では、主人公が1巡1位指名権を獲得するためにその年、翌年、その次の年の3年間の1巡指名権をトレードに出してしまうことからはじまります。これを得とするのか損とするのか、オーナーとゼネラルマネージャーとヘッドコーチとプレーヤーとファンのそれぞれの立場で対立していきます。
オーナーとGMとHC
NFLでは各球団にオーナーとGM(ゼネラルマネージャー)とHC(ヘッドコーチ)がいます。
日本ではあまり聞き馴染みがないかもしれません。
オーナー
オーナーは球団の所有者です。
球団が勝って儲かればオーナーのお金です。アメフトには「オフェンスは客を呼び、ディフェンスは勝利を呼ぶ」という名言がある通りオーナーの立場からすれば人気QBの獲得を望みます。
また、GMやHCを選んで契約するのもオーナーです。
GM
GMはチームの編成権を持ちます。
どのプレーヤーと契約するのか、どのコーチにどのような権限を与えるのか、といったチームに対することについての決定責任があります。
この映画では主人公であり、ドラフトで誰を指名するのか、指名権をトレードするかどうかを決定します。
HC
HCは試合の采配を行います。
GMによって獲得されたプレーヤーをどのように起用するのか、どのようなプレーコールを出すのか、といった試合に対するについての決定責任があります。
HCは現QBで来シーズンを戦えると判断し、指名権のトレードに反対します。
まとめると、GMである主人公は、新人有力QBを望むオーナーと、RBやディフェンスの強化を望むHCとの間で奔走することになります。
年俸とサラリーキャップ
NFLは戦力均衡のために完全ウェーバー制を採用していると書きましたが、もう一つ大きな制度があります。
それは「サラリーキャップ」です。
これはチームの総年俸を制限することで、お金に物を言わせて選手を集められないようにしています。詳しくは下記のリンク先を読んでみてください。
チームが勝てば選手の年俸が上がるので、誰かと大型契約をすれば、他の有力選手を放出しなければいけないことになってしまいます。こういった制度があるためにNFLではいままで3連覇以上が一度もありません。
映画では主人公の恋人が同じチームでこういった年俸の調整などを担当しています。
新人の年俸は指名順位が下のほど安くなるので、なるべく下位で指名したほうがサラリーキャップに余裕を持たすことができます。
前述のテキサンズの例で言うと、1位指名で獲得するよりも22位指名で獲得したほうが年俸が安くなるので好ましい、ということになります。逆に、指名を待つ選手にとってみれば少しでも上の順位で指名されるほうがいいということになります。
このへんも映画のなかではポイントになってきます。
ネタバレありのレビュー
NFLドラフトを題材に映画にするというのはなかなか難しいことだと思います。
よくあるようなドキュメンタリーのようにある選手に密着して指名されるまでを追う、というようなやり方であればいいですが、今回のようにドラフト当日のみのチームのGMを主人公に据えるとひたすら絵変わりがしません。
基本的にいろんなチームと電話のやりとりをするだけだからです。
それでもスプリットスクリーンを使ったり、うまくキャラ立てたり、登場人物を絞ったり、飽きないような工夫がなされています。
また、ドラフトの指名時間のカウントダウンがタイムリミットサスペンスのような雰囲気を醸し出しています。NFLドラフトのエンターテインメント性と映画的なスリリングさがうまくかみ合っているように感じました。
ただ、内容的にはちょっと現実離れしている感があったように思います。
GMがあんなに勝手に話を進めていくなんて考えにくいですし、最後まで見終わっても結果オーライなだけにしか見えません。今回はうまくいったけど、この先大丈夫なのか心配になります。
そもそもシアトル・シーホークスはジャクソンビル・ジャガーズの新人GMにふっかければよかったのでは?と思わなくもないです。
QBの人間性や人格をどう見るのかという話には耳が痛いとは思いながらも、NFLの非常にシビアな点をうまく描かれていて、NFLの試合と同じくらいその裏側もおもしろく思える作品でした。
エンドロールでNFL選手が次々と出てくるのがカッコいいです。オススメです。