今回はレシーバーの特性から考える作戦の作り方について書きたいと思います。
以前にどんなレシーバーをどのポジションに置くか、ということを書きました。
どのレシーバーをどのポジションに配置して、どのように活かすのかは基本的にはQBにすべて託され、常に頭を悩ませる要因のひとつです。
同じ特性を持ったレシーバーでもQBが違い、プレーブックが違えば、起用のされ方が全く異なることがあります。
QBはそのレシーバーをどう活かしていきたいのか、レシーバーはQBにどのように起用して欲しいのか、というのをしっかり把握しておき、事前に摺り合わせておくと試合へのモチベーションが変わってきます。
その延長として、特定のレシーバーを活かすための作戦を作ることもあります。
最近のペイトリオッツは圧倒的なフィジカルを持つTEグロンコウスキーありきのプレーが目立ちます。
言うなれば彼の存在がチームにとってのストロングポイントであり、そのストロングポイントを活かすために彼ありきプレーを作るのは当然の話です。
同じようにレシーバーの特徴に合わせたプレーを作ることでストロングポイントとはいかないまでも、より効果的に進めることができます。
一言にレシーバーの特徴と言ってもいろいろあります。
背が高い、ジャンプ力がある、足が速い、などはパッと思いつく特徴ですが、それ以外にも、駆け引きが上手いとか作戦理解度が高くオーディブルやオプションルートが得意なども特徴と言えます。
カット切るステップが変則的とか、ジャンプのタイミングがおかしいとか、一見ネガティブのように思えるものでも相手から見れば予想しづらいレシーバーです。
QBは練習中にこういったレシーバーの特性を掴んでおく必要があります。
コースを走るスピードやステップなどはもちろん、得意なコース、得意な高さ、得意なタイミング、得意なパスの速さなどを把握します。もちろん苦手な部分も。
あとは、サボり癖あるか、プレー崩れのときにどういう動きをする傾向があるか、両面出ていられる体力があるか、などです。
こういったレシーバーの特性を理解した上で作戦を考えます。
まずはどういった特性を活かしたいのかを考え、コースに落とし込みます。
ここにあるようなパスコースでなくても構いません。
爆発的なスピードを活かす、ということであれば、Flareから一気に縦にエンドゾーンに走るような組み合わせたコースを作ってもいいですし、カットを切るのが上手ければ10ヤードアウトというような距離を変えたコースを使っても構いません。
コースが決まればシチュエーションやフォーメーションも考えます。
このあたりは前回までの記事に書いたことを重なります。
ストロングポイントを作るという意味では、「警戒されていないところを決める」というよりも「警戒されていても決める」ということも考えてもいいと思います。
仮に警戒されていても、レシーバーの特徴を活かすことで、作戦負けを引き分けに、または引き分けを勝ちにすることを含みに作ります。
この点がレシーバーの特徴から作戦を作ることのメリットです。
特徴を活かすレシーバーのコースを決めて、そのレシーバーにうまく通せるように全体を作っていきます。
ここで考えていきたいのが、それぞれのレシーバーの優先順位です。
どんな作戦においても、レシーバーの優先順位を決めることが必要で、それがないとQBは「4人のレシーバーを同時に見て空いたら投げる」という状況になってしまいます。
この状況では正しい判断するのが難しく、投げるタイミングも遅れてしまいます。
優先順位はそのままQBの見る順番と置き換えてもいいかもしれません。
自分は以下のようなイメージでやっています。
1st Target……一番投げたいレシーバー。まずはこのレシーバが空くのかを確認する。
2nd Target……1st Tagetがダメだったときに投げるレシーバー。できれば1st Targetと対になるように組み合わせておく。
Decoy……1st Targetと2nd Targetが空くようにディフェンスを引きつける囮となるレシーバー。当然空いていればターゲットになる。
Check Down……他のレシーバーすべてが空いていないときやディフェンスが予想外の動きをしたときに、最低限進めておくため近くに走り込ませておくレシーバー。
4種類挙げましたが、4人のレシーバーがそれぞれ4種類になるというわけではなく、場合によっては1st Targetが2人、2nd Targetが2人といったケースも出てきます。
また、狙いやシチュエーションによってはCheck Downが必要なかったり、意味がなかったりするので、このあたりはQBの考え方次第です。
ということで、この過程で1プレー作ってみます。
まず、レシーバーの「スピードがあってカットがうまい」という特性をもとに「10ヤード・アウト」を組み込んだ作戦を作りたいと思います。
シチュエーションは「2nd&15▽」で、ファーストプレーを失敗し、ファーストダウンを取るためには10ヤード以上は取りたいところです。
フォーメーションはとりあえずは「右ツイン ノーバック」にします。
「トリップス」でもいいのですが、密集しててスピードを活かしきれないので、「右ツイン ノーバック」の内側に配置しての10ヤード・アウトを考えます。
(横線は1本目は7ヤード地点、2本目は14ヤード地点です。)
「2nd&15▽」の場合、ディフェンスは少々進まれるのは許容して「1-3 ZONE」や「2-2 ZONE」といったディープゾーンに人数を割いて守ると思います。
となると、内側のレシーバーとディフェンスが1対1のマッチアップという状況にはならないので、ゾーンの穴を作り出すようなおとり役のDecoyを考えます。
右奥のゾーンにはCBがいるはずなので、そのCBを下げるために外側のレシーバーがディープゾーンに走り込みます。
ストレートを選びましたが、10ヤード・ポストとかでもいいです。
ただ、10ヤードをブレイクポイント(カットを切って方向転換する位置)にすると、投げるタイミングまで時間が掛かります。
となると、QBは当然ラッシュに気をつけなければいけません。
深くドロップバックするのもいいのですが、その分投げる距離が長くなってしまうので正確なパスを投げきれない可能性があります。
なので、ラッシュから逃げつつ、ターゲットまでの距離を詰め、遠い距離を投げやすくするために右へロールアウトします。
外側のレシーバーをポストにしなかったのは、右にロールアウトすると「スローバック」といって、ロールアウトとは逆サイドに投げなくてはいけないので、投げるほうも捕る方も難しくなってしまいます。
なので、ポストよりもストレートのほうが外側のレシーバーに投げられる可能性が高いのでストレートを選択しました。
ストレートと10ヤード・アウトの組み合わせは「2-2 ZONE」においては右側2人のレシーバーに対してCB1人が対応するので成功しやすいです。
ただ、「1-3 ZONE」の場合にはSが自分の担当区域外ですが、内側のレシーバーの動きを読んでカバーしてくる可能性があります。
こうなってきてもとりあえずは位置的には内側のレシーバーのほうが有利なので、しっかりリードに投げれば大丈夫ですし、前提としてレシーバーは「スピードがあってカットがうまい」という特徴があるので、ポストに走る可能性を見せることができればSが安易にゾーンを出ることはできません。
こうなると一発タッチダウンの可能性があります。
なので、Sにはギリギリまで内側のレシーバーがアウトを走ることを読まれないようにする工夫が必要です。
一つは左のレシーバーかセンターを使うことです。
右のレシーバーがポストに走ることでSを中央の担当区域から離れられないようにします。これもDecoyです。
一応、このときに左CBが逆サイドに2人ロングに走られていることに気付いてポストを受け渡さずに左のレシーバーをカバーし続けられると厳しくはなります。
ただ、左のレシーバーのポストのブレイクポイントは5ヤードなので、内側のレシーバーのアウトに走るタイミングよりもずっと早いことになります。
センターや内側のレシーバーが自分のサイドに走り込んでくる可能性があるにも関わらず自分の担当区域を放棄して左のレシーバーのポストを追うのはあまり考えにくいです。
もう一つの懸念するのは、投げるタイミングによってはレシーバーの位置が近くなっているので、パスが長くなってしまったり、短くなってしまったりするとカバーされていなくても投げたあとに追いついてしまわないかという点です。
なので、Sを内側のレシーバーから遠ざけるために、左のレシーバーのコースをカールに変更します。
こうすると、Sを引きつけることができ、内側のレシーバーとの距離を取ることが出来ます。
また、そもそもがCBとSとLBのシームになるので、CBからSヘの受け渡しがうまくいっていかなかったり、Sが内側のレシーバーに寄れば投げることができます。
もう一つ気をつけたいのが、QBが早々に右にロールアウトしてしまうと、ディフェンス側にスローバックは避けて右サイドにパスを投げるというのがバレてしまう可能性があります。
QBがロールアウトすればディフェンスが緑の矢印のようにゾーン配置が少しズレていきます。
ディフェンスのルールとまで決めているチームは少ないかもしれませんが、スローバックの可能性は少ない、という感覚で自然とそうなることが多いです。
そうなれば、左のレシーバーは左CBに、内側のレシーバーはSにカバーされてしまいます。
なので、ラッシュとの関係性にもよりますが、内側のレシーバーが10ヤードでカット切るまでロールアウトをするのを我慢したほうがゾーンをズらされにくいので効果的です。
前述のようにロールアウトを我慢することで、内側のレシーバーがポストに走る可能性を残せるので、Sが簡単に自分の担当区域を出ることはできません。
内側のレシーバーがカットを切ったときにロールアウトをして、Sがアウトに反応しても、右のレシーバーも気にしているので、カットやインターセプトはできないポジション取りになっているはずです。
仮にSが内側のレシーバーに素早く反応してくれば左レシーバーのカールに投げます。
こういった過程で、
1st Target……右内側のレシーバー(10ヤード・アウト)
2nd Target……左のレシーバー(カール)
Decoy……右外側のレシーバー(ストレート)
という感じで決めていきます。
本来は一番ロングゲインを狙える右外側のレシーバーのストレートを1st Targetにしたいところですが、「2nd&15▽」のシチュエーションで1対1でがっつり勝つ以外に空く可能性は少ないので、もしかしたらぐらいの気持ちでいいように思います。
内側のレシーバーを狙い撃ちしたいのに、外側のレシーバーが空くかもしれないと見ているとすべてのタイミングを逸することになります。
1st Target、2nd Target、Decoyと3人のレシーバーを使ってきましたが、あと必要なのはCheck Downです。
これはこれまで危惧していた状況、CBが受け渡しせずに、Sが内側のレシーバーをカバーしにきた場合、パスが失敗に終わり全く進めなくなるのを防ぐためのものです。
次の攻撃が「3rd&15▽」となるのと、なんとか5ヤード進んで「3rd&10▽」になるのでは、かなり状況が異なります。
確実にパスが成功するようにしたいので、基本ショートパスになります。
QBが右にロールアウトしているので、センターも右に流れるようなコースにしたいところです。
LBに対しては後ろにカールでシームを攻めているとしても、そこまで仕掛けているわけではないので、センターとLBの1対1になるので、センターの特性にも依りますが、スピードで勝負するということでアクロスを選択します。
LBが最初から右手前にいる「2-2 ZONE」の場合、このアクロスを通すのは難しくなりますが、そもそも「2-2 ZONE」であれば内側のレシーバーに通すことができます。
右のLBが内側のレシーバーに反応して下がれば、3人のレシーバーはカバーされてしまいますが、センターのアクロスは通すことができます。
ということで、作戦の完成です。
「1-3 ZONE」であれはSの位置を、「2-2 ZONE」であれば右LBの位置を確認することでスナップ前にどこに投げられるのかをおおよそ見当をつけることができます。
これがシチュエーションが変わればまったくコースが変わってきます。
「3rd&15▽」であればCheck Downに投げたところでファーストダウンは獲得できずに攻守交代になってしまうので意味がありません。
なので、そのシチュエーションであればセンターはディフェンスの裏をかいてスローバックになるコーナーにしたり、10ヤード・アウトではファーストダウンまでの15ヤードが足りない可能性があるので7ヤードのジグアウトにしたりします。
ただ、このシチュエーションだけに使えるだけで汎用性に欠けるので、プレーブックにこのプレーを準備しておくか、というのは別問題です。
いまのコース変更はその場でアレンジするというのが現実的かもしれません。
ということで、レシーバーの特性から考える作戦の作り方でした。
Kyohei