前回の続きでバスケのゾーンディフェンス禁止について思うことを書きます。
前回の記事です。
ゾーン禁止で競技力を高めることができるのか?
まずはこの点です。
競技力を高めるため、「個の力」を高めようとしての方策なのに対して効果があるのか。
前回紹介した記事には
マンツーマンディフェンスは、誰が攻められたのか責任が分かりやすく、どこを改善するべきかがはっきりと分かります。また、個人の能力が練習をすればするほど身につくというメリットがあります。
とあります。
1対1でのマッチアップの強化はゾーンでの全体的な強化よりも上がりやすいように思います。
身体能力の向上がそのままマッチアップでの優位性につながりますし、なにより1対1であれば少ない人数で練習することができます。
フラッグフットボールの話になりますが、ディフェンスがゾーンで守るのとマンツーマンで守るのでは心持ちがまったく違いますし、練習の仕方も変わってきます。
ただ、ゾーンディフェンスでも最終的にはレシーバーを1対1でカバーするという感覚は必要なので、1対1でのマッチアップの強さというのはゾーンディフェンスであっても強化すべきポイントです。
ゾーンディフェンスしか採用していないからその練習だけしかしない、ということになってしまうと根本の1対1のマッチアップに弱くなり、カバーしているのに抜かれてしまうという状況を生みやすいのではないかと思っています。
バスケの場合では、小学生、中学生の遠目からのシュートの成功率が悪いので極端にゾーンディフェンスの優位な状況にあるので、肝心の1対1のマッチアップの強さが磨かれることなく過ごしてしまいがちというところに話の根本があると思います。
小中学生を育成年代と捉えていいのか?
競技力の向上のために、小中学生を育成年代と捉えて「ゾーンディフェンス禁止」することに効果があると思います。
ですが、小中学生を「育成年代」と捉えていいのかどうか疑問に思います。
言うならば、この方策というのはすべての年代を「日本代表強化」の方向に向かわせる話であるように聞こえます。
前回の記事で紹介したタスクフォースの問題提起の部分を見ると、
JBA の過去(現状):
• 12歳以下のチームの90%以上がゾーンディフェンスのみをプレーしている。
• 中学校の約70%がゾーンディフェンスを中心としている。
その結果により:• 1対1の基礎的トレーニングおよびマンツーマンディフェンスの経験不足により、1対1の技術レベルが低い。
• 日本国内のすべてのバスケットボールのレベルにおいてディフェンス力が低下している。
• 創造力不足 – 1対1の経験がない。
とあり、競技力の部分にしか言及がありません。
また、
• 新ルール: ミニバス(U12)および中学校(U15)でのゾーンディフェンス禁止は必須!
• 新ルールは地方大会を含むすべての大会で適用。
• ローカルルールの採用は認められない。
とあり、例外は認められないようです。
「ゾーンディフェンス禁止」がいくら競技力向上に効果があるとしても、小中学校のあいだだけバスケをするというプレーヤーがいるのに、一方向にのみ舵を切るのは違和感があります。
例えば、フラッグフットボールはアメリカンフットボールの下位スポーツではありませんが、
「アメリカンフットボールの競技力を向上させるために小学生のフラッグフットボールのルールを変更します!」
と言われたらどうでしょうか?
自分が携わっているNFL FLAGのルール変更を検討する場にも、「アメフトを見据えて」とか「フラッグ世界大会の基準で」とか、沢山の小学生がいかに楽しくフラッグフットボールを行えるか以外の方向性が挙がることもあります。
最終的には、楽しくとは何か?フラッグフットボールの意義とは何か?というような話を考えてルール変更があります。
どんなスポーツでもそうですが、いろんな方向性があって当然ですし、プロスポーツであっても競技力とエンターテイメント性の両立に苦しんでいるわけで、小中学生は教育的な問題を含まれているので、非常に難しい話だと思います。
高校野球に関しても、甲子園を唯一無二のゴールとしているから怪我しても無理するし、猛暑でのプレーがいつまでも続いているわけで、高校生も「プロ野球選手やメジャーリーガーを育成するための育成年代」と捉えれば連戦連投など御法度なはずです。
ゾーン禁止にデメリットはないのか?
競技力向上というメリットはあるにしても、それを享受するのはごく一部のトッププレーヤーのみで、前述した小中学校だけバスケをするような人にもメリットがないと採用していくのは難しいのではないかと思います。
そういった意味でデメリットを検討していない「タスクフォース」については拙速ではないかと思っています。
バスケについてそこまで詳しくないので戦術的な話はできませんが、もしフラッグフットボールでゾーンディフェンス禁止されたとしたらどうでしょうか。
運動能力の高いプレーヤーが一義的に起用されてしまったり、突出した1人のプレーヤーの支配力が高まってしまったりするのではないかと思っています。
おそらくバスケも似たようなことになるでしょう。
そうなると、自分のような、身長は低くて運動能力もそこまでないけど、戦術理解やいろいろ考えることでどうにかしていく、みたいなプレーヤーの使い所がなくなってしまうのではないか、という心配が少しだけあります。
そうならないように練習しろ、という話なのですが。
今回の話で一番考えたこと
また引用しますが、
「ゾーンディフェンスは、有効なディフェンスのひとつですが『こうなった時にどうする』という細かい約束があり、短時間で出来る守り方ではありません。基礎が大切な小・中学生は個人スキルを上げることに時間をかけてほしいと思っています」(長澤選手)
とあります。
練習時間は限られているなかで、戦術の時間が長ければ長いほど技術を習得する時間は短くなってしまい、成長を妨げてしまいます。
小学生のフラッグフットボールでも、オフェンスやディフェンスのプレーを確認する時間は長く、プレーの完成度や理解度によって勝敗が決まることも多いので、それは必然です。
ただ、そこに傾倒することで失われているものもあることは意識しなければいけないように思いました。
プレーの完成度を上げるためにメンバーを固定していると特に。
フラッグフットボールでやったことがフラッグフットボールのなかでだけ完結しないように、戦術練習も技術練習もしていかなればならないと思います。
難しいですが、今回のタスクフォースはそれをルール変更というカタチで無理矢理にでも動かしていこうとしているのではないでしょうか。
そういう意味では評価していますし、今後に期待したいと思っています。
Kyohei